惑星《バベル》北方に位置する《マレフィク大陸》。
そこに座する都市国家の名は《アルティスタ公国》という。
この都市国家においては、どんな金銀財宝よりも《学芸術》が価値を持つとされ、
人々は生まれながらにして、何らかの分野に対する素質を持つ。
この素質は、アルティスタでは《イデア》と呼ばれる。
しかし、どれだけ素晴らしいイデアを持っていようと、
それを実現できなければ宝の持ち腐れである。
そうならないため、人々は思い描く《イデア》を具現化する魔術、
《創作魔法》を考案した。
これにより、文学、数学、理科学、音楽など、様々な学芸術が発達し、
アルティスタはそれらの文化とともに繁栄してきた。
しかし、創作魔法による栄華は、ある日を境に、徐々に崩壊していった。
これまで人類が経験したこともない未曾有の災害、今では
《乱調の雨》と呼ばれる現象がマレフィク大陸を襲った。
この雨を浴びた《イデア》を持つ人々は、たちまちその《イデア》を喪い、
ただただ以前の特性に沿った行動を機械的に繰り返す、自我のない傀儡と成り果てる。
そうしてそれは生者のイデアを欲し、これはきっと、彼らの動力源であると
予測されているが、度々人を襲ってはそのイデアを奪い、
そうして鼠算式で増殖を続けていった。
また、人々が建材を積み上げて築き上げた王都とは異なり、
人々が楽を求めて創作魔法で築き上げた街などは、
ひとたび雨を浴びれば歪み果ててしまう。
人々の《イデア》喪失。
生息域の減少。
この二つの被害により、アルティスタは滅亡するかと思われた。
しかし、国の文学を管轄する《創世委員会》は、この結末を拒んだ。
《乱調の雨》とは、すなわち《イデア》を剥奪するための《イデア》。
ならば、《雨を凌ぐイデア》で対抗すればよい。
これが《創世委員会》の出した意見である。
そうして、彼らは国中から優れた《イデア》と《創作魔法》の才能を持つ存在、
《創者》と呼ばれる人々を募り、彼らにこの国の命運を託すと同時に、
自身ら《創世委員会》も、サポートを惜しまない、と。
こうして、《創者》達に先天的な《イデア》に加え、
《乱調対抗型イデア》を埋め込むことで、
雨を浴びた元人間の傀儡《乱された創意》と、
《乱調の雨》への反撃の狼煙となる存在を創造した。
国で、その才能を惜しまず発揮しており、名も知られた存在が、
国の存亡を賭けて、傀儡討伐と各地の調律に励む。
アルティスタの人々は、彼らをこう呼んだ。
《アマガサ》と。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
物語の主人公は、君自身。
創作に打ち込む自身の姿を投影してもよいし、自分の理想を築いてもよい。
君の作風が、この国の存亡を左右する。
アルティスタ公国に生まれ、アルティスタ公国で育った君は、
祖国を襲う未曾有の厄災に、
自分の持てる限りの創作意欲を以ってして抗うと誓い、
《調律の契り》を交わして、国家の防衛を担う
《アマガサ》部隊へ所属することになる。
自分だけの装備品を持ち、自分にしかできない創作で、
各地の埋もれ狂う創造を穿つ。
そうして、国に安寧をもたらすことが、アマガサの任務だ。
しかし、アマガサも常に戦っているわけではない。
非番時は、図書館で本を読んだり、あるいは書き綴ったり、
果てしない数式と向き合ったり、実験棟に篭ったり、
あるいは歌劇場で音楽を奏でていたり、
終末を目前としても、人々は学芸と共にあるのだから。
そうして、アマガサになることを拒んだり、叶わなかった存在だって、
それらの施設に行けば、アマガサと交流することができるし、
住民同士の他愛のない会話なんかも、王都では絶えることはない。
つまり、住民として王都で暮らすという創作だって、ここではできる。
店の店主、酒場のマスター、職人、大道芸人、例を挙げればきりがないくらい、
ここでの生活は、幅広く、自由なのだから、
君は君が思うように、君だけの《イデア》で、
この国を支えていくことができる。
「雨が、止みませんね」
「上がるまでは一緒にいましょう」
「君の創作は素晴らしい」
「それを言うなら貴方だって」
「この数式を」
「共に解いてゆこう」
惹かれ合うもよし、ひとりで創作に没頭するもよし。
さあ、舞台の幕は開かれた。
雨上がりへ導いておくれ。